最初の解体は多分、2007年6月30日かその前日あたりから。
解体業者、チームKの面々がが現れるまでに、施主兼現場監督兼作業員兼設計士としては、片手にバールとのこぎり、片手にポカリスエットをたっぷり詰めたクーラーボックスを抱え、朝も早よから現場へ出勤です。
チームK登場。屈強な男達が乗り込みます。
まずは一階からスタート。
一階は、奥のトイレ付近と、カウンター後方の据え付け家具を残し、全て撤去です。
壁を剥ぎ、天井をめくります。
ちょっと勿体ないな、と思っていた天井の造作、シャンデリア、ダウンライト、壁の飾り縁など、お構いなしに全破壊。
がりがりがりべりべりべりゴリゴリがりべりごり。
このとき、初めてあのおぞましい恐ろしい光景を目にします。
これまで何度も思わせぶりに書いてきたあの恐ろしいおぞましい出来事に遭遇した最初の瞬間です。
それは、一見綺麗な天井をめくると同時にやってきた。
大量の埃やゴミと一緒に降ってきたのは、G&Nの死骸と糞です。ゴッキー&ネズーです。
そうです。ここは元飲食店。しかも閉店して10年。なのに全て放置されたままの言っちゃ悪いがゴミ屋敷、G&Nの巣窟となっていても何の不思議もありません。
G&Nの糞は、「ばらばらと降ってきた」というレベルじゃありません。
堆積して固まり、層になって折り重なった泥の固まりが、どすっ、どすっと落ちてきます。
ミッキーの死骸は猫かと思える大きさで、配管や梁の隙間にうずくまっていたり天井裏に張り付いていたりします。ミイラ化しているのです。
そして初めて気づいた、この臭い。
最初から、この建物は何か臭うなあとずっと思っていて、「家族八景」じゃないけど、何十年の人の生活の臭いなのかな、などと考えていたんですが、この臭いこそあの臭い、ネズ公の死骸と糞の臭いに他ならないと判りました。
臭いは鼻腔を通って脳に到達し、「一生忘れない」フォルダに飛び込んで格納されフォルダロックされました。
話は逸れますがこのフォルダにはもう一つ別の臭いも格納されています。それは人間の死臭です。ま、これは話が長くなるのでまたの機会に。
「おぅ」
「うぉ」
「わぅ」
解体現場に慣れているはずの屈強な男達が低く叫びます。
天井だけでなく、壁の下地の合板の隙間、モルタルから少し浮いたタイル面の隙間、引き出しの中、あらゆるところにG&Nの糞と死骸です。
私はもう涙目です。
バールを持つ手が完全に止まってしまいました。
これはえらいことになった。
このことは妻には内緒だ。
妻はネズミが普通以上に嫌いで恐れている。このことを知ったら「この家やめます。返します。返品。もう嫌。もう死ぬ」と泣き叫ぶに決まっています。
しかし嘘をつくことも出来ず、私は後日妻に控えめにこういいました「汚かったよ。ネズミの糞とかが、ちょっと出てきたらしい」
さて屈強な男達はそれでもそんなことにはめげず、今度はプロしか持てないコンクリートを削り取るエンジン工具などを持ち出し、カウンターやモルタル壁を破壊します。
夕方には一階のほとんどが破壊され、2階も一部解体を開始して廃棄物が散乱、その廃棄物を大まかに片づけて今日の作業は終了。
大量の廃棄物を整理してトラックに積み、小さなものはガラ袋へ入れ、掃き掃除して現場を後にするチームKを見送り、1人残された哀れな施主兼現場監督兼設計士兼作業員の私はその場にぼーっと佇みます。いえ、本当は頭の中がフル回転。
さてどうしたものか。
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